売れるファーストアプローチのやり方
お客様に声をかける目的は、売るためではない
売れるファーストアプローチができる人とできない人には、決定的なある違いがあります。
その違いとは、売れるファーストアプローチができる人は、お客様に自分の人柄を伝えるために声をかけているという意識があります。
商品を売るためにお客様に声をかけているわけではありません。
つまり、お客様に自分の人柄を伝える → お客様が販売員の人柄に触れ、販売員に対する警戒心をといてくれる → 警戒心をといてくれたお客様は販売員のセールストークを素直に聞いてくれる → セールストークを素直に聞いてくれるお客様はクロージングしやすい → 売れる
このような流れになります。
販売の仕事はお客様の警戒心をとく力がなければ結果を出すことができません。
繰り返しになりますが、お客様が販売員に対して警戒心を抱いていれば、私たち販売員のセールストークを素直に聞いてくれません(理解しようとしてくれません)。
お客様の表情は優しそうにニコニコとしていて、うなづきながら反応されていたとしても、その本音は「この販売員は、なんかイヤだ……」です。
お客様の警戒心がとけていないことに気がつけず、私たちがセールストークを続け、クロージングをがんばっても売れないのです。
トップ販売員のファーストアプローチ
圧倒的に売っているトップ販売員の方々が、ファーストアプローチで狙っているのはただ1つです。
お客様に「この販売員だったら話してもいいかも♪」と感じてもらうことです。
ですからファーストアプローチでは、お客様と商品の話をするのではなく、その方としっかりとコミュニケーションをとることを意識されています。
トップ販売員の方々の接客には、「えっ、あのお客様が買って帰ったの?」という現象がとても多いですが、それは彼らがお客様の警戒心をしっかりと解いているからこそです。
警戒心が解けていないお客様が財布に手を伸ばされることはありません。
具体的なファーストアプローチのやり方
ここからは、私が実際にやっていた方法を書いていきます。
とはいっても、誰でもできる内容ですので、次の接客からすぐに試していただけます。
決して目新しさがあるものでもありません。
ただ、下の文章を読んでもらって、私と同じように声をかけていたのに、自分は販売実績が出せていないということがわかったら、それはあなたの「売りたい」という下心がお客様にバレてしまっている可能性が高いです。
とにかく、私たち販売員はお客様に警戒心を抱かせないよう強く意識しておく必要があります。
では、売れるファーストアプローチの具体的なやり方になります。
1.声かけの位置
あなたはお客様から1m50cm~2mくらい離れたところから声をかけます(要は近過ぎず遠すぎずです)。
2.態度
あなたは、かしこまり過ぎず、かといってなれなれしくもならない態度で声をかけます(なれなれしい軽い態度はお客様の警戒心がより高まります。これは20代の明るくて楽しい性格の販売員の方がしてしまいやすいのでお気をつけください)。
3.声のトーン
あなたの声のトーンをほんの少し高めにします。
または、優しい落ち着きのあるものにします。
あなたのいつものテンションから1段階ほどテンションを上げるイメージをもたれると声は勝手に高くなります。
お客様を久しぶりに会う自分の兄や姉、弟や妹などをイメージされてもよいでしょう。
※ここでもやはり、なれなれしい態度や声が軽いトーンにならないように気をつけます。
4.フレーズ(セリフ)
必ずあなたは笑顔で「ご検討中ですか♪」「いらっしゃいませ♪ 店内何か気になるものございましたか♪」「何かわかりづらいことなどございませんか♪」などのフレーズで声をかけます。
決して「その色は新色ですよ♪」のような商品の話題で声をかけてはいけません(その理由は、記事の下のほうに「マネしないで、売れなくなってしまうファーストアプローチ」で解説しています)。
これらの1~4をすると、ほとんどのお客様は「この販売員だったら……まぁ話してもいいかな」と感じるでしょう。
そして、お客様も少しづつ自分の情報を話しはじめるでしょう。
自分の情報を話はじめる=警戒心が解けてきた、ですので、あとは用意しておいたセールストークをしっかりと聞いてもらえさえすれば商品はすんなりと売れていきます。
※ちなみに、セールストークを用意していない……というのは問題外になってしまうのですが、そこは大丈夫でしょうか……。(笑)
いや……実際の売場では冷たい態度をとるお客様ばかりなんですが……
もしあなたが実際の売場でファーストアプローチをしたときに、冷たい態度をとるお客様が多いと感じておられるなら、あなたの現段階の課題はファーストアプローチではなくセールスにおける「コミュニケーション能力(特に会話術)」にあるのかもしれません。
なぜなら、私や私がいろいろとセールスについて教わってきたトップ販売員の方々はそう感じていないからです。
ほとんどのお客様が優しく対応してくれます。
※セールスにおけるコミュニケーション能力(会話術)を高める方法についてはこちらに解説しておりますので、ぜひご参考ください。
→→ 売れてしまう接客会話術
ちなみに、私はお客様に冷たい態度をとられたときは最低1回はフレーズを変えて声をかけています。
このとき、「お客様にうっとうしいと思われるのでは……」とか「嫌われるかも……」など考えません。
そうではなく、再度声をかけることでお客様の情報を探る意図があります。
要は見極め作業ですね。
・そのお客様は本当に私と話したくないのか?
・警戒心からただ反射的に一旦冷たい態度をとっただけなのか?
・本当にひとりで商品を選びたいのか?
・ただの時間つぶしで来店されたのか?
このような情報を知るために、もう一回声をかけているのですね。
これらが分かれば今後どう接客をしていけばいいかがイメージしやすくなります。
ですから冷たい態度をとられたからといって販売員が逃げ腰になってはいけません。
かといって、さすがに結構ですと言っているお客様に3回4回と声かけを続けてしまうと叱られてしまいます。
ですから1~2回声をかけてみて「今回は離れよう」と判断したら、あとでもう1回接客ができるように「何かございましたら、また私にお声かけくださいませ♪」と言っておきます。
そしてお客様に絶対に「あぁ、はい」と言わせます。
お客様は「はい」と言ったことで「一貫性の原理」(←こちらについては下で解説しています)に縛られます。
これで「さっき声をかけてきた販売員以外で誰かいないかな」という心理状態になりません。
むしろ「さっき声をかけてきた販売員はどこにいるかな」となります。
私たちが積極性を失ってはいけません。
もし私たちが積極性を失えば、そのお客様はライバル店に流れ、そこで積極的な販売員に捕まりお金を使うはめになります。
その危機意識もファーストアプローチの上達には欠かせません。
トップ販売員のファーストアプローチ(声かけ)テクニック
実は、トップ販売員たちはファーストアプローチ(声かけ)を文字通り「ファースト」とは考えていません。
声かけ作業はファーストではなく「セカンドアプローチ」と考えています。
彼らのファーストアプローチとは自分がお客様の視界に入った瞬間と考えています。
彼らは、お客様が販売員の立ち位置やその人の雰囲気も無意識にチェックされていることをよく知っています。
ですから彼らはお客様に声をかけられる前に、「あの販売員となら話してもいいかも♪」と選ばれるように意識をしているのですね(例えばいつもニコニコしながら掃除をしてみたり、お客様の視界にギリギリ入りそうなポジションで感じよいオーラで立っていたり)。
このような考えがあるので、トップ販売員の方々は自宅での準備段階から違っています。
1. ヘアスタイルや身だしなみをさわやかにしておく。
黒い服は絶対に着ません。黒を見続けてしまうお客様の気分が暗くなっていったり、威圧感を与えてしまうためです。
2. 売場では猫背にならない。
猫背は「やる気がなさそう」「自信がなさそう」と見られるからです。背筋は伸ばしておきます。
3. 作業動作は速め。
キビキビ動くことが大切です。なぜなら普通のスピードで作業しているとやる気がなさそうに見えてしまうからです。
4. 声は大きく。同時に温かみのある声色にする。
声の出し方を間違えると、やる気がなさそうと思われてしまいます。プライベートで人と話しているときと同じトーンの声は出してはいけません。
5. ニコニコしておく。自然な雰囲気で。
あなたは作り笑いをしてはいけません。「なんだか嫌な感じな販売員……」と思われるからです。
6. 「私はお客様の味方です♪」と念じながら売場に立つ。
これがとても大切です。このような想いはお客様に伝わるからです。
トップ販売員の方々はお客様を待っている段階からこのような意識を持っておられます。
お客様を自分にひき込んで売る気マンマンなのですね。
マネしないで! 売れなくなってしまうファーストアプローチ
売れるファーストアプローチがあれば売れなくなってしまうファーストアプローチもあります。
売れなくなってしまうファーストアプローチとは商品の話題で声をかけてしまうというやり方です。
お客様が手にとった商品(視線を送っている商品)を話題にしながらファーストアプローチをしてしまうと売れる確率が下がってしまいます。
そんなバカなと思われるかもしれませんね。
オレは先輩にそう教わったよという人もいるでしょう。
でも、現実は、商品を話題にしながらファーストアプローチをしてしまうと売れません。
ちなみに、私が売れなかった時代(20代前半)は本当にこればっかりしていました。
ではなぜ商品を話題にしながらファーストアプローチをしてしまうと売れなくなってしまうのでしょうか?
それは「一貫性の原理 ※1 ※2」という心理法則がお客様に働くからです。
※1 「一貫性の原理」の解説はこちら。
→→ フットインザドア(一貫性の原理)の実験データ
※2 一貫性の原理を簡単に表現すると、人は何かを他人に表明するとその何かを貫き通そうとする心理が働く、という心理法則です。
お客様にこの一貫性の原理が働いてしまうと、声をかけてきた販売員から逃げ出したくなるのです。
一貫性の原理が働くとこうなる
少し例を挙げてご説明していきます。
例えばあなたがカジュアルシャツでも買おうかなとショップに入ったとします。
そしてカジュアルシャツに手を伸ばしているときに販売員に声をかけられたとします(「そのシャツ、先週入ってきたばかりなんですよ♪」のような)。
するとあなたはとっさに何かリアクションをしないといけないと考え、「あっ……そ…そうなんですか。いいですよね、これ♪」とか「そうなんですか♪ デザインがいいですよね」のように何か好反応をしてしまうでしょう。
その理由は、あなたはその販売員にそっけない人、冷たい人と思われたくないからです。
実はこのときのあなたの反応がポイントになります。
あなたにとってそんなに深い意味はなかった反応でしたが、しかし商品について好反応をしてしまったので「この商品に関心があります」と販売員に表明してしまったことになったのです。
するとあなたは商品に関心があることを貫き通さなければならない心理が働き、「あっ! 今日はこの商品を買わないといけなくなるかもしれない……」とか「あぁ……この店で何かを買わないと悪いかな……」などのプレッシャーを感じはじめるようになるのです(おそらくあなたもこんな経験を1度はされたことがあるのではないでしょうか?)。
あなたはお店に関心があって入店した → 販売員へカジュアルシャツに関心があると表明した → それなら買うだろう・・・この流れは誰がどう考えても買物として一貫しています。
さて、それとは別に私たちは他人に対して「言ってることとやってることが違う人と思われたくない」という心理も持っています。
つまり私たちは一貫していたいのです。
私もあなたもこの心理があるため、商品に好反応をしてしまったら「買わないといけない……」とプレッシャーが自然と生まれてしまうのです。
しかしあなたはまだそのシャツが欲しいわけではありません。おそらく買う買わないについてはまだ何も考えていない段階でしょう。
というわけであなたは「よく考えろ! 必要以上に買わないようにしなきゃ!」と買わないように買わないようにと意識しはじめるようになるのです。
声をかけた販売員からすると、お客様がこんな心理状態のときに売るのはかなりむずかしいでしょう。でもそうさせたのはその販売員です。
これが売れないファーストアプローチになります。
大量の検討しますねを発生させてしまうことになります。
私は売れていなかった若い時代を思い返すとよく「その柄いいですよね♪」なんて声をかけていました。
だから6月ごろのTシャツが売れまくる時期に何人も帰らせて上司に叱られていました。
商品を話題にしてお客様に声をかけてしまうとお客様の心理をとてもきゅうくつにさせてしまうのです。
ファーストアプローチをしたときに冷たい態度のお客様
さて、今度は逆の反応の場合を考えてみましょう。
あなたがその販売員へ冷たい態度をとったとします。
あなたは販売員に声をかけられたのですが、「あぁ……。大丈夫です」と、冷たい態度をとりました。
このとき、あなたの心理状態は最悪といえます。
あなたは声をかけてきた販売員とは商品の話をしたくないと表明したことになるからです。
つまり一貫性の原理が働き、あなたはファーストアプローチをしてきた販売員を避け続けるようになります。
たとえ気になる商品を見つけたとしても関心のないそぶりを貫かれるでしょう(急に調子良く「すいませーん♪」と態度を変えれば、こいつは都合いいヤツだなと思われるからです)。
ということで「まぁ、今日はいいや」と店を出るでしょう。
またはさっきの販売員以外で誰かいないかな……? と別の販売員を探しはじめるはずです。
これはファーストアプローチをした販売員からすると売れなかったことになります。
このようにお客様が手にとった商品を話題にファーストアプローチをしてしまうとそのあとの接客がむずかしくなるのです。
売れるようになるファーストアプローチ まとめ
まとめると、売れるようになるファーストアプローチは次の3つがポイントになります。
・自分の姿をお客様に見られたときに「あの販売員は話やすそう」とふと思わせること。
・自分の人柄を受け入れてもらうこと。
・実際に「この販売員とならこのまま話してもいいな♪」と感じてもらうこと。
ただ、もしかしたらあなたはお客様に自分の人柄を伝える会話なんてできないんだけど……と思われているかもしれませんね。
商品以外の話題でどうやってお客様と会話するのよ? とも思われているかもしれません。
その場合、あなたの本当の課題はファーストアプローチではありません。
セールスにおける「売れる会話術」が必要になるでしょう。
もしあなたがお客様との会話に苦手意識をもたれているのなら、私の売れてしまう接客会話術というセールステクニックがあるので、そちらを1度読んでみていただけたらと思います。
以上が売れるようになるファーストアプローチのやり方です。
ぜひ、これからもこのようなセールステクニックを少しずつ学んでいって、あなたの目標を達成させていっていただけたらと思います。
ありがとうございました。
一二 三四朗(ヒフ ミシロウ)