よくある「学習性無力感」の間違った解釈

営業職と学習性無力感

営業マンが営業実績を出せなくて「私にはできない……」と思うようになるのは学習性無力感に当てはまらない

最近、私は「学習性無力感」の間違った解釈をよく目にするようになりました。例えば心理学の種類をまとめて紹介しているサイトや、ビジネスの成功法則について解説されている書籍の中でと。そこには学習性無力感の肝心なことが書かれておらず、頼りになるWikipediaでは「えっ、これっていいのかな? 多くの人が勘違いしてしまうのでは?」と思わずにはいられなくなってしまう解説の少なさだったりします。

例えば、私たち営業マンの世界でよくある次のような現象について、ほとんどのサイトでは学習性無力感と説明されていたりします。

  • 毎回毎回お客様に断られている営業マンがいます。彼は営業実績が良くありません。そして断れることが続くことで、しだいにメンタルが打ちのめされていきます。すると彼は、次のように考えるようになっていきます。「俺って売れない営業マンなんだな……。一生懸命セールスの勉強してきたけどダメだな」と。彼はがんばって努力したのに営業実績を出せない自分であることを学習してしまい、無力感におちいってしまいました。そして仕事をがんばらなくなってしまうようになりました。さらに、プライベートでも気になっていた女性に積極的にアプローチしなくなってしまいました。

これは見事に学習性無力感だろうと思えますが、この営業マンの症状は学習性無力感に当てはまりません。これは学習性無力感ではないのです。

学習性無力感の判定

学習性無力感と判定されるには3つの要素が含まれ、これがけっこうややこしい

まず、学習性無力感に当てはまるかどうかは次の3つを含みます。

  1. コントロール不可能性(非随伴性)
  2. 認知
  3. 受動的行動

コントロール不可能性とは、自分の行動によって結果をコントロールできない状況にいることをいいます。例えば、小・中学生が「学校に行きたくない」と言っても行かなければならない状況のようなことです(一時的に休ませてはもらえるかもしれませんが)。これは憲法によって親が義務教育を受けさせなければいけないと決められているので、子どもは逃げられません。コントロール不可能な状況です(子どもも本当は休んではいけない、行かなければいけない=逃げられないと理解しています)。

認知とは、「自分の経験をどうとらえ、それを他人や自分自身に説明するとき、どう説明するのか」というものです。例えば上記の営業マンは、がんばってセールスの勉強もした、断られ続けてもアプローチをし続けた、それでも売れなかった・・・・・・という経験を「自分は売れないダメな営業マンだ」ととらえています。ですから、例えばそれを精神科の先生に説明するようなときに「私は売れないダメな営業マンなんです」と説明してしまいます。決して「今はまだ結果が出てないだけなんです。これからどんどんセールスがうまくっていきます」ととらえ、説明はしないでしょう(ちなみに、そうとらえて、そう説明することもできます)。

受動的行動とは、自分の意志が無くなってしまい、消極的な状態に変わっていくことをいいます。上記の営業マンは仕事と一切関係がないプライベートの時間まで消極的な状態になってしまっていました。受動的行動が見られます。

学習性無力感の判定には、この3つの要素が含まれていなければなりません。これは『学習性無力感 パーソナル・コントロールの時代をひらく理論』の中に説明されています。

ネガティブな認知、受動的行動が見られるだけでは、学習性無力感とは言えない

上記の営業マンには、ネガティブな認知受動的行動がみられるので学習性無力感におちいっているように思えますね。しかし、肝心なコントロール不可能性が不完全です。

彼はセールスの勉強しているようですが、それが本当に効果的な勉強だったのでしょうか? 彼のアプローチ方法やお客様とのコミュニケーションをトップ営業マンに見てもらったり、指導してもらったことはあるのでしょうか? それに目標数値が高すぎるのではないのでしょうか? 達成させることがむずかしい目標を真面目に追いかけ続けているだけではないでしょうか?

営業では、お客様を100%コントロールすることはできないのですが、自分をコントロールすることでお客様にこちらが望む行動をとってもらうことはできてしまえます。つまり彼には結果をコントロールできる要素がまだまだたくさんあるのではないかということです。彼のどこにコントロール不可能性が当てはまるでしょうか。

『学習性無力感 パーソナル・コントロールの時代をひらく理論』の中にも、営業実績が出せなくて消極的になっていく生命保険のセールスマンの例が出てきます。が、そこでも明確に「不完全な学習性無力感である」〔注〕と否定されています。

〔注〕 C・ピーターソン、S・F・マイヤー、M.E.P.セリグマン 『学習性無力感 パーソナル・コントロールの時代をひらく理論』 二瓶社  2000年 pp.8-9

学習性無力感のことは忘れよう

営業マンに限らず、受験生、スポーツ選手など、学習性無力感を間違って解釈してしまい、失ってしまったやる気をそのままにしておくことを正当化してしまわれる方がおられます。しかしそれではいけません。なぜなら生産性が落ちてしまうからです(これは日本全体としても損になります)。上記の営業マンの場合は、ネガティブ思考なだけですね。学習性無力感ではありません。

しかしやっかいなことは、彼の認知がネガティブな点です。自分自身の状況を本当はまだまだコントロールできるのに「コントロールできない」と認識してしまっており、抑うつ気分が続いてしまっています。彼の場合は、何よりも認知のやり方を変えていかなければなりません。

「私はまだまだセールススキルが足りてないだけ。もっと勉強してスキルアップできればトップセールスたちのような結果を出せるはず。焦らずいこう!」。

「断られたのはお客様の機嫌がたまたま悪かっただけ♪ 再訪問したときは機嫌が違うかもしれない。さっ 次に行こう♪」。

自分の経験とその結果をポジティブにとらえる練習が必要です。それができるようになれば受動的行動はなくなっていきます。プライベートも楽しく積極的に過ごせるようになります。それはそのまま高い営業実績が出せるようになる可能性を高めることにもつながります。

営業マンは認知をポジティブなものに変えるだけで営業実績が安定するものです。これについては私が出会ってきた天才と思えるセールスマンたちが皆さんそうでした。信じられないような営業実績を出す彼らはものすごくポジティブ思考です。

今でも忘れませんが、私は次のような経験をしたことがあります。それは、私が彼らと同じエリアに営業に出かけたときでした。私はその日、営業実績が悪く、落ち込んでいました。すると、天才セールスマンも珍しく私と同じような営業実績だったのです。しかし、このとき彼らはあっけらかんとしており、帰りの電車では本を読んで普通に過ごしておられました。私は思い詰めた重たい雰囲気になっており、自分でそれに気がつけるほど彼らとは対照的だったのです。そのときひとりの天才セールスマンがこんなことを口にしていました。

「今日は運が悪い日ですね。まぁ明日は営業実績を出しますよ♪」。

そして本当に次の日に、その彼は高い営業実績を出されていました。

※私なりに彼らを観察していると、彼らはお客様から拒絶されることに何とも思わないようでした。普通はお客様から拒絶され続けると精神的にこたえるのですが、「なんで? なんで落ち込むの? セールスってそんなもんじゃん」と、そもそも理解ができないようでした。(笑) 彼らにとってセールスとは「売る! 金を稼ぐ!」のみであるかのようでしたね。(笑)

さて、学習性無力感の間違った解釈は、落ち込み続けるためにはもってこいの科学的根拠になってしまいます。

「何度やってもダメだった。だからこれからもどうせダメさ」。

これは学習性無力感ではありません。ネガティブ思考なだけです。

おそらくほとんどの場合、自由自在にコントロールできる環境であるはずです。例えば、もっとスキルアップのために勉強を続けることもできます。またはいっそのこと、大胆に営業職を辞めてしまうことだって選択できます。コントロールし放題です。

それゆえに、私たち営業マンは判定がややこしい学習性無力感のことなど忘れてしまいましょう。その代わりに「セールスコミュニケーションスキルを向上させる」「自分自身の経験や現在のおかれた状況などをポジティブに説明できるようになる」と、この2つを意識していきましょう。それだけで、営業実績は安定しはじめます。

以上、「よくある『学習性無力感』の間違った解釈」でした。

ありがとうございました。

一二 三四朗(ヒフ ミシロウ)

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